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船員・海事に関する調査研究

 

海事問題調査委員会報告(H28.3)(PDF)

post by 海洋会事務局
 海事問題調査委員会では、公益目的事業活動として海事社会におけるホットな重要テーマについて取り上げています。今回は、災害時医療支援船構想についてご紹介します。
 
 阪神淡路大震災から20年が経過するなか、災害時において民間船を活用した公助の構想は関係者の間で熱心に検討されてきました。そして今、構想のステージから実現のステージへ発展しようとしています。
 この災害時医療支援船構想について丁寧に説明していただきました。
海事問題調査委員会 委員長 門野 英二
海事問題調査委員会報告(H27.3)(PDF)
post by 海洋会事務局

海事問題調査委員会中間報告その3(平成23年5月)
 安全と環境―――生物多様性―――

委員長 赤峯 浩一

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本論に入る前に、先ず今回の東日本大震災により被災された方々に心よりお見舞い申しあげます。また一刻も早く、通常の生活に戻られることをお祈り申しあげます。微力ではありますが、海事問題調査委員会も出来る限りのご協力を致す所存です。
さて、当委員会は、昨年会誌・海洋の8月号(平成22年版)にて「今世紀は、低炭素化社会の成立」と謳われ縷々ある中、温室効果ガスについて、報告いたしました。
今回は、環境問題のなかでは、実は温室効果ガスよりも問題的には大きいとも言われていますが、会員の方々にもあまりなじみのない「生物多様性」について報告いたします。
今回の大震災では津波による破壊、また放射能問題とまさしく安全と環境問題は一体となっていることが改めて確認されることとなりましたが、地震を発端とする様々な事象による「生物多様性」への影響も大変心配されるところです。
 
1.序論・生物多様性とは
2010年夏、日本では「113年間の観測史上最も暑い夏」となった。異様な夏を経験したのは日本だけではない。ロシアでは高温のため各地で森林火災が相次ぎ、また、パキスタンや中国は洪水に見舞われ、多くの被災者が出ることとなった。多種多様な環境問題がある中、「環境問題」といえば、地球温暖化問題を思い浮かべがちであるが、温暖化問題は、地球規模であり、そのメカニズムも比較的理解しやすいため、今では一般に広く理解されている。一方、今回のテーマである「生物多様性」は、本質を掴みづらく、また説明もしにくい。それは、生物多様性問題の特徴である複雑で地域的な面が一因であるとも考えられる。
 
 
昨年2010年は、国連が定めた「国際生物多様性年」であったため、それに合わせて国内外で様々なイベントが開催された。そして、日本では生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市で開催されたこともあり、生物多様性は一躍注目を浴びた。特に国内のメディアでは、連日、生物多様性についての特集が多く組まれていた。環境問題では、CO2の次は生物多様性だ、などという声も聞かれた。しかしながら、ここまで話題になっていても、今一つその重要性が理解できないというのが本音である。また、生物多様性の保全の必要性は理解できたとしても、そのために何をすべきかについては難しい問題である。本来は、身近であるはずの生物多様性問題の解決策を考えるためには、まずは生物多様性の基本と特性を理解するところから始めたい。
 
 
2.概要
 
一般的に、生物多様性とは地球上の生物の多様さと自然の営みの豊かさをさし、下図のように大きく3つ(生態系・種・遺伝子)に分類される。地球上には、様々な生態系があり、その中にいろいろな生物が存在している。また同じ種間でも、遺伝子の違いにより、形や色などが異なる。3つのうち1つに異常が表われれば、やがてその他にも影響し、地球全体の生態系が崩れていく。近年、人間の経済活動により、長年それら3つがうまく作用し保たれてきたバランスが失われつつあると言われている。森林伐採や海洋汚染などによる生態系の破壊や、動植物の密猟・乱獲などによる絶滅危惧種の増加などがそれに当たる。
 
それでは、この生物多様性を保全するための条約はいつ成立したのか。実は、生物多様性条約も気候変動枠組み条約と同じく、1992年6月にリオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)で採択されている。そのため両条約は双子の条約とも呼ばれている。その後、生物多様性条約は1993年12月に発効し、2011年2月現在、193の国・地域が参加している。また、アメリカ合衆国は条約に署名しているが、批准していない。この条約の大きな3つの目的は以下の通りである。
1) 生物の多様性の保全
2) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用
3) 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分(ABS)
同じく生物に関する条約であるワシントン条約※やラムサール条約が既に存在していた中で、なぜ本条約が改めて策定されたのか。その意義としては、特定の行為や生息地のみを対象とするのではなく、生物多様性の包括的な保全を目指すためである。また、保全するだけでなく、持続可能な“利用”を目指している。
 
※遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分(ABS):
Access and Benefit-Sharing
先進国が開発途上国の生物遺伝資源を生命科学・医学分野などに利用した場合、その代価を義務的に支払わなければならない。例えば熱帯植物のパパイヤで抗がん剤を、ヘビ・サソリの毒から鎮痛剤を抽出して開発すれば、それに伴う利益を遺伝資源提供国にも一定部分配分しなければならない。
 
※ワシントン条約:
Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約
 
※ラムサール条約:
Convention on Wetlands of International Importance Especially as Waterfowl Habitat
特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約
 
 
3.生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
 
日本がホスト国を務めたCOP10が、2010年10月18日から29日まで愛知県名古屋市で開催され、179の締約国、関連国際機関、NGO等から13,000人以上が参加した。主な議論は、①ABS議定書(名古屋議定書)、②ポスト2010戦略計画(愛知目標)、そしてそれを達成するための③資金動員計画である。その中で途上国側からは、上記のうち最も困難を極めていたABSを巡る問題(生物遺伝資源の利益共有に関する議論)を解決しない限り、その他項目については議論を進めないという“セット採択”(パッケージ・ディール)が要求された。膠着状態が続いていたところ、29日に残り半日の時点で、松本環境相が各国に議長案を示した。これにより、締約国すべてが上記3つに合意するかたちで、COP10は幕を閉じた。つまり同時に、条約が採択されて以来これまで18年間行われてきたABSを巡る議論も終わった。
そもそもなぜ、途上国側は遺伝子資源問題にこだわるのだろうか。彼らとしては、自国内の有形物(自然資源)が枯渇してしまった場合、消耗することがない無形物(遺伝子資源)がお金になれば、今後持続的な資金源になるとの考えがあるようだ。先進国側としては、無償で今まで利用できたものが原材料コストに変わり、コスト増に繋がり得る。50カ国以上の批准が必要な名古屋議定書が発効するのは1~2年後と予想される。条約発行後は、原産国と利用企業がそれぞれの案件ごと、個別交渉することになる。
 
2.で紹介したとおり、生物多様性条約の目的の一つに生物多様性の保全がある。そのイメージが先行するため生物多様性条約といえば、漠然と「いきもの」や「里山」などを思い浮かべるかもしれないが、本来もっとお金と結びついたものであるといえる。つまり本来、生物多様性条約は“途上国支援条約”であり、資金・人材・技術を先進国から途上国へ移転するための条約なのである。
 
 
4.生物多様性とビジネス
 
生態系と生物多様性の経済学(TEEB)※の試算によると、生物多様性を失うことによる経済的損失は毎年2~5兆ドルにものぼる。これは世界経済の3~7%という非常に大きな値であり、気候変動と同じくらいのインパクトと言われている。地球温暖化対策でいえば、企業は軒並みCO2排出量削減目標を掲げ、数年前では考えられなかった程様々な対策を実施している。一方、生物多様性への企業の認識は限られており、取組みを始めたばかりというのが現状である。また、自社の製品やサービスは生き物とは直接関係がないため、生物多様性との接点はないと捉えてしまう企業が多い。しかし、製品やサービスのライフサイクル全体で見ると、あらゆる企業活動は、原材料調達、生産、流通などの各段階で資源の利用、土地利用や水域・大気への影響など様々な接点がある。ここでは、海運業を例にその関連性を説明したい。
 

生物多様性の損失に直接つながる5つの要因

 
一般的に、企業活動は右図のように5つの要因のいずれかと関連があると言われる。海運業では、②外来種の移入、③汚染、④気候変動との関係性が深いと言われており、外来種の移入、特にバラスト水※による海洋生物の越境移動が世界的な問題になっている。この水に含まれる海洋生物や細菌が、本来の生息域以外で異常繁殖し、海洋生態系や漁業などに悪影響を与える可能性があるのだ。これを受け、IMO(国際海事機関)が一定の水質基準を満たさなければ排水できないという国際規制※を2004年に採択した。現時点(2011年2月)では未発効だが、今後1~2年以内に発効するのではないかとされている。バラスト水対策の一例として、NYKでは条約発効に先立ち、自動車専用船「エメラルドリーダー」に国土交通省の型式承認を受けたバラスト水処理システム※を2010年9月に搭載した。現在保有・管理する船舶への搭載検討を順次進めている。

 

 
また北米では、東アジアやロシアなどに存在するマイマイガ(AGM: Asian Gypsy Moth)が、船舶やその貨物を経由して北米大陸へ侵入することを危惧して防止策を講じている。アメリカ・カナダ・メキシコの植物検疫機関で組織されたNAPPO(North American Plant Protection Organization)は、危険度が高い東アジアの港を出港した船舶に対してAGM不在証明取得の義務化などの対策をとっており、今後更に規制の強化も予定されている。各船社では、検査機関発行の不在証明書の備え付けなどの規制遵守に加え、自主的に入港前のクルーによる船内チェック及び駆除を行っている。
 
上図は、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)が開発した「企業と生物多様性の関係性マップ」を参考に、海運業のライフサイクルと生物多様性への影響、及び関係した当社の取組みを纏めたものである。船を調達する・運航する・処分する、などの全過程において大気汚染、海洋汚染、外来種の移入など生物多様性を脅かす可能性がある、ということが把握できる。また、悪影響を低減するための対策として、船を造る(調達する)段階では船体抵抗を少なく、また太陽光発電を利用するなど、環境に配慮した船の設計を模索している。運航する際は、安全運航の徹底、バラスト水の適正管理や陸上電力を使用するなどしている。そして解撤する際には、環境に配慮した中国の指定ヤードで行う。このように、事業と生物多様性の関係性を可視化することが、生物多様性の保全対策を進める上での第一歩となる。
 
※バラスト水:
船の空荷時に船体動揺を安定させるために船腹に積む水のことで、一般に揚荷港で注水し、積荷港で排水する。
 
※生態系と生物多様性の経済学(TEEB):
The economics of ecosystems and biodiversity
生態系と生物多様性が経済に与える影響などを研究した報告書
 
※バラスト水の国際規制:
2004 年2月ロンドンで開催された国際海事機関(IMO)会議で採択された船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約。2009 年以降に新しく建造される船舶にはバラスト水を適切に処理する設備を備えていることを義務付けている。30カ国が批准し、かつ、それらの合計商船船腹量が世界の35%以上となった日の12カ月後に発効されることになっている
 
※バラスト水処理システム:
バラスト水とともに運ばれた海洋生物を処理し生態系を乱すことのないようにするシステム。バラスト水管理条約が発効されれば、本条約に定める処理基準を満たすため、全ての外航商船にバラスト水処理システムの設置が義務付けられる。また、新造船・既存船の順に2017年1月にかけて順次規制対象が拡大される。
 
 
5.身近な生物多様性
 
我々は私生活の中でも、気が付かないうちに生物多様性の恩恵を受けている。バイオミミクリーという言葉を聞いたことはないだろうか。これは生物模倣と訳されるが、人間社会の問題を解決するため、自然の仕組みやプロセスを研究し、模倣したりインスピレーションを得たりする新しい科学のことである。バイオミミクリーという言葉が普及したのは、最近であるが、身近な自然から学ぶ技術開発の歴史は長い。たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の翼を観察して飛行力学の知識を得たのは、500年も前のことである。そして
この考えを利用した製品は私たちの周りに知らない間に多く存在している。例えば、新幹線の先頭車両は空気抵抗や騒音を減らすため、カワセミのくちばしをヒントに開発された。また、面ファスナー(マジックテープ)は一般にひっつき虫と言われる植物類(オオオナモミ等)種子の表面にあるフックのようなとげの先端をヒントに発明された。
 
また、海運業に不可欠な船舶技術の世界では、さめ肌機能の応用が考えられている。その機能が競泳用水着に採用されたことは記憶に新しく、小さな突起状のうろこの先端にある溝に生じた小さな渦が水流の流れを吸収して摩擦抵抗を減らしている。日本郵船の未来のコンセプトシップ「NYK Super Eco Ship 2030」でも船底にさめ肌塗装を施すことで、摩擦抵抗削減を目指している。
 
このように世の中にあふれているバイオミミクリーの情報を纏めているAsk Natureというインターネットサイトがある。これは生物の情報を体系的にまとめたデータベース形式になっており、アメリカ人サイエンスライターのジャニン・ベニュス(Janine Benyus)氏設立のバイオミミクリー研究所(The Biomimicry Institute)により運営されている。Ask Natureでは、世界中の人々が自然を模倣して何かを作り出そうとするときに、必要な情報にアクセスできるようにすることを目指している。
 
生物多様性は幅を持つ概念であるため捉えづらいが、その分応用が利くという利点がある。前述の通り、事業活動とも切っては切れない関係である。まだルールや議論も発展途上にある生物多様性、うまく取り入れていけばバイオミミクリーのようにチャンスにもなりうる。

 
海事問題調査委員会
 委員長 赤峯浩一
  塚本達郎  竹井義春   花原敏朗  武田和彦  藤澤昌弘
  鈴木勝朗  鐘ヶ江淳一  山内章裕 丸本秀一          
  
post by 海洋会事務局
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  海洋会の常設委員会である海事問題調査委員会は、「安全と環境」をテーマとして取り上げております。
「環境」に関連する船舶から排出される物質としては、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、更に、水生生物の越境が問題となっているバラスト水などがあります。最近、これらの排出物については世界的に注目されており、規制の導入などにより船舶からの排出削減が強化されつつあります。
 今回は、この4項目について紹介すると共に、温室効果ガス排出削減の新技術である「電池推進船」に関して報告します。 海洋会の常設委員会である海事問題調査委員会は、「安全と環境」をテーマとしてとりあげております。
 今回は、そのⅡとして「環境」に関連する船舶から排出される物質(温室効果ガス(CO2)、バラスト水、 NOx・SOx)に加えて、温室効果ガス排出削減の新技術である「電池推進船」について報告します。
 その第一回目として「1.温室効果ガス(CO2)」について報告します。

I
.温室効果ガス(CO2
1.地球温暖化の原因
現在、地球温暖化問題が世界的に注目されています。この地球温暖化は人間の活動により排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量の増加が原因の一つであると考えられています。
地球の気温は、太陽光によって暖められた地表面から熱(赤外線)が放射され、大気中にある温室効果ガスがその熱を吸収し再放射することによって生物が生息するのに適した温度を保っています。しかしながら、産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料の大量消費によってCO2排出量が増加し、また、森林の伐採などによりCO2の吸収源が減少した結果、大気中の温室効果ガス濃度が上昇しました。大気中の温室効果ガスの濃度が上昇すると地表面から放射される熱の吸収量が多くなり気温が上昇します。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、1906年から2005年までの100年間で世界の平均気温は0.74℃上昇しました。また、1956年から2005年までの50年間の温度上昇傾向は10年間に0.13℃であり、過去100年間(1906年~2005年)の傾向の約2倍に相当します。今後、21世紀末までに、世界の平均気温は1.8℃から4.0℃上昇し、世界の平均海面水位は0.18mから0.59m上昇すると予測されています。
(出典:IPCC「Climate Change 2007:Synthesis Report」)
 
2.地球温暖化の影響
地球温暖化によって生じる影響は多岐に渡ります。生態系への影響としては、動植物の生息地の移動や減少などが挙げられます。また、今後地球温暖化が進むにつれ異常気象の頻度や強度が増し、世界各地で水不足や農作物の収穫量の減少、海面上昇による海岸侵食などの被害、更には、健康への影響が懸念されています。
また、現在世界各地で地球温暖化の影響によって発生した可能性のある熱波、ハリケーン、干ばつ、海氷の減少などの災害が報告されています。
1)熱波
2003年夏、ヨーロッパでは熱波によって過去500年で最も暑い夏となり、多くのヨーロッパ諸国で、最高気温が更新されました。その強烈な熱波で、穀物は枯れ、川は干上がり、森林では火災が発生し、約5200人が死亡するなどの大きな災害となったことが報告されました。また、2007年の夏においてもヨーロッパにおいて同じような熱波が発生しました。
2)ハリケーン
2005年8月に米国南部を襲ったハリケーン・カトリーナは、暴風や高波・高潮などの災害をもたらし、被害地域の経済活動が一時的に停止するなど、米国に大きな被害をもたらしました。
3)干ばつ
オーストラリアにおいては、近年連続して発生した干ばつにより、農業生産は大きく減少しました。特に、2006年の干ばつは観測史上最悪とされ、生産量は前年比で約60%減少しました。
4)海氷の減少
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、北極の平均気温は過去100年間で世界平均の気温上昇率の約2倍の速さで上昇し、海氷や積雪面積が減少したと報告しています。更に、北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅すると予測されています。北極海の海氷が減少することにより、今後北極海航路が開通する可能性があります。北極海航路が開通した場合、日本からヨーロッパへ航行する場合、マラッカ海峡からスエズ運河を経由する航路に比べ約40%航海距離が短縮します。北極海航路が実現化すれば海上交通にとって喜ばしいことではありますが、地球規模で見れば温暖化が原因ですので、喜ばしいことであるとは言えません。
 
3.地球温暖化防止に向けた国際的な取り組み
1)気候変動枠組み条約
地球温暖化を防止するためには大気中の温室効果ガス濃度を安定化させる必要があります。気候変動枠組み条約は、この大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを究極の目的とし、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において採択されました。
この条約において締約国会議を設置することが定められており、条約の最高機関として、定期的に締約国の義務、制度的な措置について検討することになっています。また、締約国の共通だが差異のある責任、開発途上締約国等の国別事情の勘案、速やかかつ有効な予防措置の実施などの原則のもと、主に先進締約国に対し温室効果ガス削減のための政策の実施等の義務が課せられています。
2)京都議定書
気候変動枠組み条約の目的や原則を踏まえ、1997年に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)において、法的拘束力のある温室効果ガス排出量の削減目標や達成期限などが定められた京都議定書が採択されました。2001年に米国が京都議定書から離脱しましたが、2004年にロシアが批准したことにより、2005年に同議定書は発効しました。
この議定書では、気候変動枠組み条約の「共通だが差異ある責任」の原則に従い、途上国は温室効果ガスの排出削減義務がなく、主に先進国に対して2008年から2012年までの5年間における温室効果ガスの排出削減量を各国に定め、先進国全体で1990年比5%以上削減することを定めています。また、国内の削減努力のみで目標を達成することが困難な場合には、排出量取引などの経済的メカニズム(京都メカニズム)を利用して温室効果ガスの排出を相殺することができます。
尚、京都議定書において航空機用及び船舶用の燃料から生じる温室効果ガスの排出は、国際民間航空機関(ICAO)及び国際海事機関(IMO)を通じて活動することにより、排出の抑制又は削減を追及することになっており、国際航空及び国際海運に削減義務はありません。
 
4.国際海運
1)輸送モードごとのCO2排出原単位
国際貿易のほとんどを海運が担っています。船舶は造船技術の発展と船型の大型化によって輸送効率を継続的に改善してきた結果、他の輸送モードよりもトン・マイル当たりのCO2排出量が少なく、環境に優しい輸送モードです。
 
輸送モード別CO2排出原単位
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)
 
2)国際海運からのCO2排出量および削減手法の検討
船舶は化石燃料を燃料油として使用しているため、温室効果ガスであるCO2を排出しています。2007年における国際海運からのCO2排出量は約8億7000万トンと推定されており、世界全体のCO2排出量の約2.7%に相当します。これは、ドイツ1国が排出した量とほぼ同じです。今後、国際海運から排出されるCO2の削減対策を何も実施しなかった場合、世界経済が成長を続けることによる国際海運の需要の増加によって、CO2排出量は2050年までには2007年比約2倍から3倍に増加すると予測されています。
現在のところ国際海運に削減義務はありませんが、今後CO2排出量の増加が予測されている国際海運が地球温暖化防止に貢献するためにも、排出削減は大きな課題となっています。現在、IMOの海洋環境保護委員会(MEPC)において国際海運から排出されるCO2を削減するために、船の設計変更や省エネ機器を搭載することによって効率の優れた新造船を導入していく「技術的手法」、燃料消費削減のため最適な運航方法をとるように促す「運航的手法」、排出量取引や燃料油への課金など市場原理を活用する「経済的手法」について論議されています。
(出典:IEA「KEY WORLD ENERGY STATISCS」2009を基に作成)
産業別 世界のCO2排出量
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)

(出典:環境省「日本の気候変動とその影響」)
国際海運のCO2排出量予測
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)
3)CO2削減への取り組み
(1)減速航行
舶用燃料油を1トン燃焼させると約3トンのCO2が発生します。また、船舶の機関出力は航行速度の3乗に,燃料消費量は航行速度の2乗に比例します。よって、船の速力を低下させると低下した速力以上に燃料消費量が減少しますので、減速航行を実施することは省エネ効果があると共にCO2排出量を削減することができます。
(2)プロペラ効率の改善
プロペラの回転によって海水が後方に押し出されることにより推進力が発生しますが、旋回流も発生しますので、一部の推進エネルギーが失われます。この失われるエネルギーを回収し、推進効率を向上させることによって燃料消費量を削減するために、2重反転プロペラやPBCF(プロペラ・ボス・キャップ・フィンズ)などが開発されています。
(3)船体抵抗の低減
船が海上を航行する場合、造波抵抗や摩擦抵抗などの影響により船舶の速力に応じて推進エネルギーは失われ、燃費効率は悪化します。
これらの抵抗を低減するために、低摩擦型船底塗料の採用や船首形状の改良などが行われています。
更に、水より抵抗の少ない空気の泡を船底へ送り込む空気潤滑システムが開発され、現在実証実験が行われています。
(出典:日本郵船(株)ホームページより)
(4)太陽光パネル・陸上電源供給装置
通常、船舶に必要な電力は主に化石燃料を使用するディーゼル発電機によって賄われています。この電力の一部を太陽光パネルによる発電によって賄う自動車運搬船が就航しています。太陽光という自然エネルギーを利用することによって、ディーゼル発電機で消費する燃料油を削減することができます。
太陽光パネル搭載自動車運搬船
(提供:日本郵船(株))
また、米国カリフォルニア州の一部の港においては、コンテナ船が停泊中に陸上から電力の供給を受けるシステムが導入されています。陸上から船舶に必要な電力を供給することにより、船舶のディーゼル発電機を停止することができ、停泊中に排出するCO2を削減することができます。
 
電源ケーブル
(提供:日本郵船(株))
電源プラグの接続(陸側)
(提供:日本郵船(株))
 
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海事問題調査委員会中間報告

          委員長 鏡 敏弘
海事問題調査委員会より平成21526日受理


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海洋会の常設委員会である、海事問題調査委員会は、安全と環境に対する海洋会の取り組みを研究テーマとして取り上げております。

国際的には、IMO57回海洋環境保護委員会(MEPC57)[概要後記参照]の審議結果(GHG関連)で、

①温室効果ガス(GHG)排出削減対策に関する原則、②GHG削減対策について 及び

GHG中間会合として公表されております。

①には国際海運からのGHG排出削減対策に関する原則として、9項目が合意されたとの事です。この中で『抜け道を防ぐため、拘束力を有し、かつすべての旗国に平等に適用されること』という項目があります、先進国からの提案項目と思われます。

ただし、中国、インド、ブラジル、南ア及びベネズエラが気候変動枠組み条約で定める「共通だが差異ある責任:地球温暖化への責任は世界各国に共通するが、今日の大気中の温室効果ガスの大部分は先進国が過去に発生したものであることから、先進国と開発途上国の責任に差異をつけることを謳った概念」の原則に反するとして、その削減を求め、立場を留保しています。

②については、減速航行やエンジン燃焼効率の最適化など、即時的にGHG排出削減効果が期待できる手法を選択し、その最良の運用方法(Best Practice)を策定することで合意されCO2排出インデックスが船舶設計時と実際の船舶運航時が表示説明されています。

③については、前記②に関するインデックスの検討、見直し及びBest Practiceに関する決議、CO2削減量,GHG削減対策の枠組み、実施方法、費用対効果、法的問題点等の検討する会合を開催することとなっています。

この他、MECP58においては、新造船の燃料性能を事前に評価するための「エネルギー効率設計指標(EEDI)算出方法に関する暫定ガイドライン」が纏められた(日本船主協会月報4月より)。今年開催予定のMECP59にて採択されます。

 [後記]※IMOの概要:

   海運は、元来非常に国際性の高いものであるため19世紀後半から主要海運国が中心となって各種の技術的事項に関する会議を開催し、灯台業務や海難防止、海難救助等の海上の安全の確保を目的とする国際条約等の国際的取り決めがなされてきた。

   第二次世界大戦を経て、国際連合は、1948年(昭和23年)3月、国際連合海事会議をジュネーブで開催し、IMCOInter-governmenntal Maritime Consultative 

Organization:政府間海事協議機関)の設立及び活動に関するIMCO条約を採択した。

その発効要件として100万総トン以上の船腹を有する7カ国を含む21カ国の受諾を求めていたが、1958年(昭和33年)3月、我が国が受諾書を寄託することにより発効要件が満たされ、発効に至った。その後、1975(昭和50)11月に機関の活動内容の拡大及び加盟国の増加に伴う機関の名称変更等の必要性に鑑み、IMCO

IMOInternational Maritime Organization:国際海事機関)に改称され、

現在に至っている。目的は、国際貿易に従事する海運に影響あるすべての種類の技術的事項に関する政府の規則及び慣行について、政府間の協力のための機構となり、

政府による差別的措置及び不必要な制限の除去を奨励し、海上の安全、能率的な船舶の運航、海洋汚染の防止に関し有効な措置の勧告等を行うことを目的としている。

  ※海洋環境保護委員会:MECPMarine Environment Protection Committee

IMOの組織の理事会の一つで全ての加盟国で構成し任務は船舶に起因する海洋汚染の防止に関する国際条約の採択、改正及び各国への通報、条約の実施を促進する措置の検討等である。

 

1.海運会社の対策

こうした国際的に環境保護対策が検討審議が継続される中、海運各社は、それぞれに安全の確保と環境保全にむけた経営計画を出しております。

その中で共通しているのは、環境憲章(方針)を呈示し活動指針を出しています。

例えば、環境保全に努めるとか環境保全を経営の重要方針にするとしており、継続的な改善による地球環境の保全を方針とする等、環境保全を非常に重要と配慮しております。

これは、大気汚染や地球温暖化の原因となる有害排気を削減するため、船舶他設備や使用燃料の研究・改善、および最新機器・技術の開発・導入を推進する、化石エネルギーを燃料電池や太陽光・風力など再生可能なエネルギーにできる限り置き換えるなど、国際海運の環境技術において世界最先端を目指し、環境に配慮した製品・資材及び船舶の調達を推進する事でしょう。更に最適スピードによる燃料消費削減など絶え間ない改善努力により、地球の持続可能な発展に貢献したいとの事です。

各社共、環境マネジメントシステムに国際規格たるISO14001の認証を得ています。

そして、もう一つ重要な事は、環境破壊となる事故防止です。過去に重大海難が発生し、社会にも環境にも大きな影響を与えてしまった事例からの結果です。

2.具体的取り組みについて

社長直轄のプロジェクトを立ち上げている会社もあり、コンテナ船のスピードを10%削減により、燃料消費量が約30%削減できることから積極的に実施。50%省エネ船を実現するため世界最大規模(40KW)の太陽光発電を搭載し、世界初の推進電力への給電を視野に入れた実証実験を行うそうです。()航海訓練所でも東京都と協議の上練習船で実施しているそうですが、船舶停泊中の陸上電力の利用を開始しています。

伊勢・三河湾内(約250隻の自動車船)及びカリフォルニア沖(343隻)での減速航行を実施して、年間で約1,000トン及び4,000トンのCO2排出削減を達成。

衝突や座礁などにより、損傷した船体から貨物油が海に流出するのを防ぐために、タンカーの船体を二重構造(ダブルハル)にしており、シングルハルは1隻のみ。

 

ある船社では、船舶の動静把握、海気象情報(荒天、津波など)やテロ、海賊、地域紛争などを24時間態勢で監視し、必要な情報を各船にただちに通知できるような「安全運航支援センター」を開設。運航船の監視強化により事故を防ぎ、環境に負荷を与えない取り組みを行っています。安全確保において「人」の育成は重要であることから、同社では士官養成のための訓練専用の練習船を運航し、安全運航と環境対策を最前線で預かる優秀な乗組員を育てることにも重点を置いています。船上で発生した廃物処理(廃油、廃棄物)を条約・規則に則り適切に処理し、船上での継続的な実地教育も行っています。地道ではありますが、環境対策を重要と考えているためでしょう。

次にGHGの削減に対して。コンテナ船は高速で航行可能な高出力機関を備えており、その分燃料の消費量が他の船種と比較して格段に多いことが知られています。そこで、ある意味で環境負荷の高いコンテナ船のスピードを削減することにより、港から港までの平均速力に対し2乗で比例する燃料消費量を効果的に削減。会社全体として排出するGHGの総量削減に取り組んでいます。風圧・水圧抵抗を軽減させた船型船を就航させることによる燃料消費量の削減と併せて効果が期待されています。オゾン層保護対策としては、冷凍装置、冷房装置の冷媒をオゾン層保護に適した冷媒に代替えすることで環境保護に努めることが行われています。

この他、新規技術開発での取り組みとして、船社、メーカーならびに関係団体と共同での「独創的なバラスト水処理装置の研究開発」や、煤煙・煤塵対策としての排気ガス浄化システムの開発への取り組みも行われています。

 

[後記]※MARPOL条約

   船舶の航行や事故による海洋汚染を防止することを目的として、規制物質の登記・排出の禁止、通報義務、その手続き等について規程するための国際条約とその議定書。

   正式名称は、1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書。長い名称なので海洋汚染防止条約もしくはマルポール73/78条約と呼ばれる。

   日本は、19836月加入。関係国内法は海洋汚染等及び海上災害の防止にかんする法律。

3.関連情報

某紙の記事によると、温室ガス削減目標の「中期目標」は、2020年までにCO2などの温室効果ガスをどれだけ減らすかを数値で示したもので世界の科学者が唱えた予測に基づいている。

干ばつや洪水が多発したり、深刻な被害を避けるには「排出量を2050年までに1990年の量の50%にさせることが必要」だと言う。そこで50年を「長期目標」としその照準で中間点が20年というわけで、10年先の目標をなぜ今、決める必要があるかは、世界で増え続ける排出量が、今後1020年のうちに減少に転じなければ、被害を避けながら長期目標を達成するのは難しいと予測されているためという。日本では、昨年福田前首相が今と比べて6080%削減という目標を掲げた。しかし、中期目標は、麻生首相が近く決める。97年の京都議定書を合意した会議で、0812年の排出量の平均を90年と比べて6%減らすという目標を義務づけられたが、実際07年度は9%増えていて目標達成は危うい。

一方、別な情報なるも、石炭火力発電所の建設に政府が「待った」をかけている、一旦建設すると長く使われる施設だけに、最大限の排出削減対策を求めるのは、当然。

福島県いわき市での計画で、今後もこうした姿勢を政府としてつらぬいてもらいたい。

石炭は、石油や天然ガスに比べて燃焼時のCO2排出量が多い。低炭素社会づくりで温暖化を防ごうと、あらゆる分野で温室効果ガスの排出を減らす努力が求められている。

世界に目を移すと石炭火力を主たる電源としている国は、少なくない。中でも排出量の多い

中国やインドは、7~8割を石炭火力に頼っている。こうした国々への技術支援は、温暖化防止に大いに貢献するはずと強調している。

 

 

最後に、こうした状況を熟知し認識しつつ、環境に対する研究を、今後も継続していく事で海事問題調査委員会の中間報告と致します。

 

海事問題調査委員会

  委員長

鏡 敏弘(KN16)

委員

 大津 皓平(TN15

 竹井 義晴(TN25

 花原  敏朗 (KE18)

武田 和彦 (TE12)

松田  洋和(TN22

三宅 隆  (KE17)

谷本 光央  (TN38)

山本 泰三 (TN41)

 

 

 

以上

post by 海洋会事務局